インド・シッダールタ フリー・チルドレン 教育センター

「スジャータ村に着くと、一軒の寺院に案内された。礼拝を済ませば、一冊のアルバムが出てきて、ここは貧しい子供たちのための教育施設だから寄付しろ、ときた。自分でも不思議なことに、素直に幾分まとまった金を寄付した。

詳しく話を聞けば、ここ「シッダールタ(仏陀の名前)フリー・チルドレン教育センター」は、五歳から十四歳の二五〇名ほどの子供を抱えている。十一人のボランティアが月に八〇〇から一〇〇〇ルピーほどのお給料で子供たちの教育に勤めている。他にバクロール(Bakrour)、ガヤ、ビダール(Bidar)に分校があり、ブッダ教育機関として運営されている。僕が挨拶したのは、ここの学校長であるプラモッド・ミシュラさん。

差し出されたチャーイを頂きながら、現代インドの問題についての話を拝聴した。なんでも、一番の問題がカースト制度、二番目が宗教、三番が貧困で、四番が人口、ということだ。その他、ドリー(Dory)という男尊女卑の制度があって、女性は嫁入りの時に、家財道具一式を夫の家に貢ぐのだと言う。そして、もし夫がろくでなしだった場合、嫁の実家への金の苦心、家庭内暴力や、ひどい場合は火をつけられるケースもあるとか。そういう家庭の子供を引き取って、施設が面倒を見ていると言う。なんとも痛ましい話だ。

僕も二ヶ月間インドを巡って、貧困と子供たちをとりまく現状を目の当たりにしてきた。そして、その根底にある根強いカースト制度も。
一方で急速に変わりつつあるインドも見た。己の力量で身分制度から脱出する者も出てきている。

ひとつのキーは、教育だ。
読み書き計算ができれば、仕事を得ることができる。さらに英語などできれば、例えば、駅の切符係、旅行会社の電話番、ホテルの従業員、外国人相手のガイド、ウェイター、銀行員まで、能力次第でもっと高給な仕事だって望める。等しく教育を受ける機会さえ与えられれば、今は社会的に弱い女性も、経済的に自立できる可能性が広がる。
この国には、仕事はたくさんある。誰もが豊かになれる機会が得られるようになれば、自然とカーストのしがらみも薄れていくだろう。

豊かになることが至上の命題だとは思わないし、豊かさと引き換えに失くすものがあることもわかってきた。

それでも、人は誰しもが幸せになる権利を奪われるべきではないと思う。

インドのいたるところで、貧しさゆえにストリートチルドレンとなった子供たちが、マフィアにさらわれ、手足を切断され、目を潰され、物乞いとして路上に放り出される。
シンナーを吸い、麻薬に犯され、障害者のようになって死んでいく者たち。
貧しさがそれらの悲劇の原因なら、やはりそれは是正されるべきだと思う。
子供たちの健康な手足、夢や尊厳、幸せになる権利に替えられるものなんて何もないはずだ。彼らこそ、明日の希望そのものなんだから。」

静慈彰著『サラスワティーに連れられてインドを旅する』(本文より)
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